仏師とは、
仏像彫刻および仏像修復に携わる職人であり、
その始まりは仏教伝来とともにあります。
仏像彫刻
仏像には金銅仏、塑造、乾漆仏、石仏、木仏など作り方や素材に様々な種類があります。
当工房では木の仏像を専門に彫刻しています。
木の仏像の作り方には一木造と寄木造の二つがあります。
一木造
一木造りとはその名の通り一本の木から仏像本体を彫り出す技法で、仏教伝来当初から使われている技法です。
干割れを防ぐために背刳りや割り矧ぎという技法で内刳りをし中を空洞化することがあります。
寄木造
寄木造とは製材した複数の部材を組み合わせて一体の仏像を作る技法で、平安時代に仏師定朝が完成させたと言われる技法です。
この技法により分業制が進み巨大な仏像や大量の仏像の製作が可能となりました。
仏像の素材となる材木は仏教伝来当初はクスノキが使われていました。
奈良時代から平安時代にかけて一木造には榧材が多く使われました。寄木造りが主流となった平安時代中期以降は檜材が使われるようになり現在まで檜を中心に彫られています。そのほかにも桂や桜、欅、杉といった国産材でも彫られていますし、インドなど熱帯地域でしか取れない白檀で彫った檀像と言われる仏像も多く残っています。
当工房では、檜を中心に彫刻しています。檜を使う場合は最高級と言われる木曽檜(尾州檜)のみを使用しています。木目の細かさや木肌の美しさは木曽檜ならではのものです。また工房には楠、榧、桂、欅、桜、白檀といった様々な木材も常時用意しており、お客様の様々なご要望に応えられるようにしております。
京都は古くから一貫して仏像造りの中心であり、工程に応じて職人さんが細分化されています。
当工房では彫刻のみを受け、それ以降の工程については信頼のおける職人さんに直接依頼をすることによって、依頼主の要望に最大限に応じる制作体制をとっています。
- 仏像を彫る職人 = 仏師
- 漆を塗る職人 = 塗師
- 金箔を押す職人 = 箔押師
- 彩色をする職人 = 彩色師
- 截金をする職人 = 截金師
仕上げ方法
仏像の仕上げ方法にもいくつもの種類があります。
木地仕上げ
近代以降の仏像に多い仕上げで、彩色や漆箔などの塗りはせず、木肌のままで仕上げる技法です。
仏像に木目の美しさを取り入れることができます。木肌を美しく仕上げるために彫刻刀を丁寧に研ぎ細かく削っていきます。
漆箔仕上げ
彫刻した仏像の上に漆を塗ったのち、金箔で全身を覆います。歴史的には一番多い作られ方です。
本来仏は全身が金色に輝くという教え(三十二相八十種好)にのっとった仕上げ方法です。衣類の上は金箔で、肌の部分は金粉を撒くことが一般的です。
極彩色
彫刻した仏像に胡粉などで下地塗りをし、その上に岩絵具等を使って極彩色を施す仕上げ方法です。
淡色彩色
胡粉下地をせず木地に直接彩色していきます。木目が見える程度に薄く塗るのが特徴です。
截金
金箔を数枚焼き合わせたものを細い線状に切り、膠などを使って仏像の上に貼り付けて紋様を描いていく古くからある技法です。木地仕上げ、彩色仕上げなど、どの仕上げの上にも施すことができます。
仏像修復
日本の仏像の歴史は約1500年あり、その間、仏像は修復されながらその姿を現在に残しています。
古い仏像を修復し次の時代に残すことも仏師の重要な役割です。
仏像修復には制作当初の金箔や彩色を残したまま、欠損部や彩色の剥がれた部分だけを古色を施しながら直す修復と、寄木造ならば一度分解し彩色等も全て剥がし、欠損部分や腐食部分などを作り直した上組み直し、新たに彩色または漆箔し直す修復の2つの方法があります。
本来はオリジナルの彩色層を残したまま、欠損部の作り直しや接着剤の劣化部分の再接着、剝落した彩色部分に補彩した上で古色をする修復が望ましいのですが、途中での劣悪な修復の際に施された接着や彩色がある場合や、あまりにも劣悪な環境に置かれていたため元の彩色を残せない状態の場合などは一度分解し新たに彩色し直すという修復の形をとります。
仏像は文化財としての価値はもちろんですが現在進行形での信仰の対象という思いを忘れぬように施主様と相談の上決めております。
修復の主な流れ
① クリーニング
まずは仏様の体に長い年月を経て積もった埃を丁寧に取り払います。
② 彩色の剥落止め
彩色層や金箔が下地の劣化によりヒビが入ったり剥がれたりしている場合、これ以上剥落しないように膠などを使い抑えます。
③ 欠損部、虫喰い部の修復
指先や衣の端、持物、台座などは長い年月の間に欠損していることがよくあります。
また仏像は素材が木なので虫食いの被害に遭い強度が弱くなっていることもあります。欠損部については檜を使って新調し、虫食いなどはコクソ漆で埋めたりします。
④ 解体、再接着
寄木造りの場合接着剤の膠が劣化して接着力を失っていることがあります。
接着が離れている場合は一度解体し、再度接着し直します。
⑤ 補彩、古色
剥落止めや欠損部の新調、解体再接着を経て本来の姿を取り戻した仏像の新調部分や剥がれてしまって下地が見える箇所などは、岩絵具や漆、金箔を使って現状の色に合わせて補彩、古色を施します。
記録を残す
修理の記録を後世に残すことも大事な仕事です。
修理記録を文書に残し報告書にまとめたり、最近では3Dデータをとって記録を残したりもします。
縁
〜 仏像奉納プロジェクト 〜
2011年3月11日に起きた東日本大震災。これは仏師加藤巍山さんと共に私たち仏師にできることはないかという想いから始まった、震災の被害にあったお寺に仏像を奉納するプロジェクトです。
法相宗大本山薬師寺の執事長・大谷徹奘師の仲立ちによって岩手県大槌町の江岸寺様へご本尊を奉納させて頂く事が決まり、大槌町の復興と江岸寺の再建に歩みを合わせ、釈迦三尊像を納めるべく彫刻を進めています。